仲間の話

共依存のやみの中から(3)

とび

 たまたまあの人が家に帰ってきたとき、わたしは離婚届の用紙を手わたされました。 それまでにも1度離婚届を渡されたときがありました。その時は意地でも離婚しないと思いました。 わたしのこの苦しみを相手にも思いしらせてやる、そう思っていました。 ですが、2回目は署名をし、印鑑を押しました。 以前にくらべてわたしたちはうまく行ってきているのにと思いました。 ですが、あの人が届を出しても、出さなくても、どっちでもいいと思いました。

 次の日、離婚届を出したと言われたときには少しおどろきました。 ですが、なにかさばさばした気分でした。もうこの家を出よう、そう思いました。

 荷造りをして家をでました。結婚したときに借りた部屋でした。 荷物はそれほど多くなかったので、車で何度も往復しました。 それでも、1日では荷物を運びきれず、結局1週間ほどかかってしまいました。 その間、新しく借りた部屋と元の部屋とを往復しました。 昼間は会社に行って、夜に荷造りをして荷運びをしました。

 離婚してから1ヶ月ほどしてから、内容証明郵便が届きました。 中には、ある弁護士の名前で事務所に来てほしい旨が買かれていました。 電話でアポイントを取ってから、その事務所に行きました。 そこで、結婚していた人から離婚交渉の依頼を受けたことを聞きました。 それで、まずわたしの話を聞きたいのだとその弁護士さんは言いました。

 それから半年ほど、弁護士さんと離婚の話し合いをすることになりました。 それは、本当に大変な話し合いでした。自分の犯した過失、そして相手の過失、 それらを1つ1つ積み上げていく作業でした。こんなことを初めた相手を恨みました。 話し合いに行くまえの朝は本当にゆううつでした。

 半年ほど話し合いをつづけた後、弁護士さんから調停の案を示されました。 この案にわたしは不満でした。出てきた案は玉虫色でした。 わたしはあの人にくらべると悪いところなどない、そう思いました。 離婚になったのは相手のでたらめな生活のためだ、そう思いました。 ですが、この案で折れることにしました。これ以上、あの人とかかわりあいたくない、そう思ったからです。 ただ1つ、調停の中に、2度と会わないという項目を入れてもらいました。

 離婚の話し合いがすべておわった時、すっかり人間不信におちいっていました。 あの人にわたしははめられた、そう思いました。あの人から何度か手紙がきました。 いつも読まずに弁護士事務所に返送してくれるよう送りかえしました。

 ある日のグループミーティングで、ある人が離婚したときのことを話してくれました。 まるで、わたしのことを話しているように感じました。なみだがあふれてきて、泣いてしまいそうになりました。 わたしの番になったとき、「わたしも離婚しました。わたしもおなじようなことをしました。」 そう言うのがやっとでした。

 それまでは、離婚のときのことはあまりにも生々しくて話せませんでした。思いだすのもいやでした。 そのあと、わたしはすこしずつ、ミーティングで離婚交渉の話ができるようになりました。

 グループミーティングで知り合った人にさそわれて、別のグループに行きました。 そこではじめて、わたしは自分の経験について、結婚していたときのことも離婚したときのことも隠さずに、 またごかまさずに話をすることができました。はじめて来た所でしたので、すこし緊張していました。 しかし、はじめてでしたのでかえって素直になることができました。

 わたしが話しおわったとき、部屋の中がとても静かだったのを覚えています。 ざわざわした人の物音も聞こえませんでした。話しかけてくる人もいませんでした。 ですが、この場にいる人たちがわたしの話しを真剣に聞いてくれたのが伝わってきました。 部屋の中の空気まで変わったかのように感じました。

 そのまま、次の人の番になり、そしてその次の人、とミーティングは進んでいきました。 ミーティングが終るまで、わたしは体のふるえがとまりませんでした。とても安らかなきもちでした。 わたしは来てよかったと思いました。

 ミーティングで話をすることを続けているうちに、あの人にされたことをいくつも思い出しました。 わたしがしたことも思い出しました。それまでずっと、わたしは被害者だと思っていました。 離婚の交渉をしてから、この気持ちは一層強くなりました。 ですが、わたしがしたことを思い出していくと、わたしもまた相手を傷つけていたのでした。

 わたしもあの人に無理を言っていました。 あの人がわたしの無理を聞いてくれないとき、わたしはたいへん腹を立てました。 わざと困らせたこともありました。

 物を投げつけ、けがをさせたこともありました。あの人に暴力をふるったこともありました。 あの人からもらったプレゼントを壊し、投げ捨てました。

 わたしのことをわかってくれないあの人に疲れ、そして自分もあの人の言うことが理解できず、 わたしはあの人の「イエスマン」になりました。 なにも考えず、感情も捨ててあの人の言うことだけをしようとしました。わたしはロボットになろうとしました。 ロボットになりたいと思いました。ですがロボットになり切れず、不満はたまる一方でした。

 わたしもまた加害者だ、そう思ったときあの人を許そうと思いました。 いまでわたしは「どっちが悪いか」に支配されていたのに気づきました。 事実は「どっちも悪い」、わたしとあの人はお互いに加害者であり、被害者だった、そう思いました。